<抗オクルディンモノクローナル抗体はC型肝炎ウイルス感染を完全に阻止できる>
・Shimizu Y, Shirasago Y, Kondoh M, Suzuki T, Wakita T, Hanada K, Yagi K, Fukasawa M.
“Monoclonal antibodies against occludin completely prevented hepatitis C virus infection in a mouse model.”
J. Virol. in press
オクルディン(Occludin)は、細胞間接着に働くタイトジャンクション(TJ)を構成する膜タンパク質として広く知られています。一方で、オクルディンはC型肝炎ウイルス(HCV)の感染にも重要な分子であることがわかってきており、我々も肝細胞へのHCVの侵入過程にオクルディンが必須の分子であることを報告しています(参照)。
以上の結果から、オクルディンが有望な抗HCV創薬標的の一つであることが考えられますが、これまでインタクトな(変性していない、高次構造を保持した)オクルディンの細胞外領域を認識するプローブは存在せず、オクルディンに結合する分子によりHCV感染を阻止できるかははっきりしていませんでした。
我々は、同じTJに存在する膜タンパク質であるクローディン-1のインタクトな細胞外領域を認識するモノクローナル抗体の作製に成功しており(参照)、同様の方法で、オクルディンに対するモノクローナル抗体の作製を今回試みました。このモノクローナル抗体作製法の特長は、1)DNA免疫法を用いることで、より高次構造を保持した形で細胞表面に抗原提示させること、2)抗体のスクリーニングを、インタクトなオクルディンを発現しているHuh7.5.1-8細胞(親株)およびOKH-4細胞(オクルディン分子をノックアウトした細胞株)への抗体結合能の違いで判断すること、です。その結果、インタクトのオクルディン細胞外ドメインを認識する4種のラットモノクローナル抗体の樹立に成功しました。オクルディンは4回膜貫通型タンパク質であり、2つの細胞外領域(ループ)を持ちますが、3種の抗体は第1細胞外ループ、1種は第2細胞外ループを認識する抗体でした。これら抗体は、特異的かつ強力に(Kd<1nM)オクルディン分子に結合し、培養細胞HCV感染系において、セルフリー感染、細胞-細胞間感染の双方を阻害できることもわかりました。さらに、ヒト肝キメラマウスを用いた動物感染実験系においても、第1細胞外ループあるいは第2細胞外ループを認識する抗体双方で、HCV感染を完全にブロックできることがわかりました。このとき、マウスへの毒性は観察されませんでした。以上の結果から、本研究で作製したオクルディン抗体は、抗HCV侵入阻害剤開発に向けてきわめて有用なツールになると考えられます。また、HCVの宿主細胞への侵入メカニズムはいまだ不明の点も多く、今回樹立したオクルディン抗体は、侵入機構の解析にも役立つことが強く期待されます。さらには、本抗体は生きた細胞に作用させることも可能であり、オクルディンの新たな細胞生物学上の役割・機能解明にも貢献できると考えています。本研究は、国立感染症研究所細胞化学部・ウイルス第二部、大阪大学、浜松医科大学、帝京平成大学との共同研究の成果です。研究費は、文部科学省科研費、日本医療研究開発機構(AMED)肝炎等克服実用化研究事業の支援を受けて行われました。本成果は、発表雑誌の"Spotlight"(号の注目論文)にも選ばれました。