<非常に効率的なC型肝炎ウイルス感染培養細胞系の構築>
・Shirasago Y, Fukazawa H, Aizaki H, Suzuki T, Suzuki T, Sugiyama K, Wakita T, Hanada K, Abe R, Fukasawa M.
“Thermostable hepatitis C virus JFH1-derived variant isolated by adaptation to Huh7.5.1 cells.”
J. Gen. Virol. 2018: 99: 1407-1417.
長い間、C型肝炎ウイルス(HCV)の培養細胞を用いた感染系は構築が難しかったのですが、劇症C型肝炎患者由来のJFH1株が脇田らにより分離されたことで、広く利用できるようになりました。このことはHCV研究において画期的なことでした。しかし、他のウイルスに比べ、必ずしもウイルス産生効率が十分高いとは言えず、感染による細胞変性効果も強いとは言えない状況でした。Huh7細胞由来のHuh7.5.1細胞は、HCV感染感受性が最も高いことが知られていましたが、我々は、さらにHCV感染感受性が高く、その性質が安定しているHuh7.5.1-8細胞を分離し(Jpn. J. Infect. Dis. 2015)、様々なHCV研究に利用してきました。今回我々は、ウイルス側についても、Huh7.5.1細胞に繰り返しJFH1株を感染させることで、Huh7.5.1細胞に適応し、効率的にウイルス産生できる変異ウイルス(JFH1-tau株)を分離することに成功しました。
Huh7.5.1-8細胞とHCV-JFH1-tau株を組み合わせることで、1011コピー/ml以上のウイルス産生が見られ、恐らくこれまでで最も高いウイルス産生系が構築できたものと考えています。また、この系では、感染による細胞変性効果も明確です(細胞が最終的に全滅します)。
HCV-JFH1-tau株は、HCVコアタンパク質領域のK74T変異、HCV E2タンパク質領域のI414T変異の2カ所に変異が入っていることがわかりました。実際に、これらの2カ所の変異を人為的にJFH1株に導入すると、ウイルス産生効率が、約700倍上昇することも確認されました。それでは「なぜHCV-JFH1-tau株は感染性が非常に高いのか」について様々な検討を行った結果、HCV-JFH1株では37℃において急速に感染性が低下するのに対して、HCV-JFH1-tau株では、感染性がより安定に維持されていることがわかりました。つまり、感染性を有するウイルス粒子が多く安定的に維持されることで、ウイルス感染効率が高くなっているものと考えられました。
今回樹立したHCV-JFH1-tau株とHuh7.5.1-8細胞を用いたHCV感染系は、迅速かつ簡便にウイルス(感染)を検出できることから、HCV研究に非常に有用と考えています。
本研究は、国立感染症研究所細胞化学部・真菌部・ウイルス第二部、東京理科大学、浜松医科大学、慶應義塾大学との共同研究の成果です。研究費は、文部科学省科研費、日本医療研究開発機構(AMED)肝炎等克服実用化研究事業の支援を受けて行われました。