トゴトウイルス感染に関連した劇症型ウイルス性心筋炎による致死的病態の解明
2025年09月04日
Fulminant Viral Myocarditis Associated with Thogotovirus
Osawa S#, Miyazaki K#, Mine S#, Hirata Y#, Terada N, Ozawa M, Kikuchi K, Uchida A, Hirose K, Imakawa Y, Komuro K, Nagata N, Abe S, Uchida Y, Yanaoka T, Ozono S, Yoshikawa T, Lim CK, Fukushi S, Matsuu A, Miyamoto S, Kataoka M, Katano H, Maeda K, Ebihara H, Suzuki T.
(#: contributed equally)
N Engl J Med. 2025;393(9):924-926. doi:10.1056/NEJMc2503343
オズウイルスは、2018年に国内のダニから同定されたトゴトウイルス属に分類される新規ウイルスである。これまで動物やヒトへの感染の可能性が指摘されていたが、2023年には世界で初めてのヒト感染死亡例が報告されていた。しかし、オズウイルス感染症の病理、特に致死的な病態に至る機序は不明であった。本研究では、オズウイルス感染症の致死症例についてウイルス学的および病理学的に詳細な解析を行い、その病態形成機構の解明を目的とした。
患者は発熱・倦怠感等を主訴として医療機関に入院した。入院後に症状が一過性に軽快したが、入院8日目に不整脈が出現して心筋炎と診断され、ペースメーカー留置などの治療を受けたが、入院26日目に心室細動により死亡した。ウイルス学的解析では、入院時の血液から高コピー数のオズウイルスRNAと感染性ウイルスが検出され、入院9日目の心筋生検において激しい心筋炎の所見と心筋細胞内でのウイルス増殖が確認された。入院21日目以降には血中で中和抗体が検出され、死亡時には血中ウイルスRNAは検出限界以下となっていた。その一方で、解剖時の心筋組織内にはウイルスRNAが残存し、炎症の持続が観察された。さらに、オズウイルス感染と炎症は心臓の刺激伝導系を構成する特殊心筋にまで及んでいたことが明らかになった。これらの所見から、血中ウイルスが消失した後も心筋組織内でウイルス感染による炎症が持続し、刺激伝導系に障害をきたし、致死性不整脈の契機となったと考えられた。本報告は、ウイルス性心筋炎の複雑な病態の一端を明らかにするとともに、新興ダニ媒介感染症としてのオズウイルスを含むトゴトウイルス属に属するウイルスの感染病態解明について、さらなる研究の必要性を提起するものである。
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受けて実施された。